世界民話AIアトラスWorld Folktale Atlas AI | 33 冊 1225 話 | 出典と権利を一件ずつ確かめた

古い道具で測る

このアトラスは多言語 Embedding(深層学習)を中心に据えている。 ではそれは何を買ったのか。 深層以前の標準的な道具 —— TF-IDF・BM25・LSA(潜在意味解析)・Burrows の Delta・対応分析 —— を同じ土俵に並べて測った。どれも 1990 年代までに確立した手法で、GPU も学習済みモデルも要らない。

✓ 同じ言語の中では、古い道具のほうがよく当てる

物差しは半分割である。話を語数の中点で割り、前半を問いにして、1022 話の後半の中から相手を探す。 正解は「同じ話の後半」なので、人手のラベルが要らず、循環もしない。偶然の水準は 0.1%。

やり方P@1固有名を落とすと
TF-IDF91.9%83.9%
BM2585.5%74.9%
LSA85.0%—
e5(窓の平均)79.9%—

TF-IDF が 91.9% で、e5 の 79.9% を上回った。固有名(大文字で現れる割合が 9 割を超える語 1,786 語)を 両側から落としても 83.9% で、まだ上回る。 同じ言語の中で「同じ話の続き」を見つけるだけなら、語の一致で足りる。

✗ 言語をまたぐと、古い道具は崩れる

独英グリムの同じ話 26 組で、ドイツ語版から英語版 64 話の中の相手を探させた。 偶然の水準は 1.6%。

やり方P@1固有名を落とすと
TF-IDF19.2%7.7%
BM2511.5%0.0%
LSA19.2%—
e5(このアトラスが使っているもの)73.1%—

登録した帯は「古典が 10.0% を超えたら不成立」で、TF-IDF は 19.2% だった。登録どおり、この主張は不成立である。ただし理由は測れた —— 固有名を落とすと 7.7%(BM25 は 0.0%)に落ちる。 古典が言語をまたげていたのは、独英で綴りの似た固有名が一致していたからであって、 意味を見ていたからではない。e5 の 73.1% との差はここにある。

✓ 本の効果は、機能語だけで本を当てられるほど強い

Burrows の Delta(文体計量の古典)で測った。 コーパスで頻度上位 150 語 —— つまりほとんど機能語 —— の相対頻度だけを使い、 話ごとに z 化して、その話を抜いて作った本の重心に当てる。1,163 話・32 冊で、正解率は 72.5%(偶然 3.1%)。

「似ている民話」の正体の大半が本であること(測ったこと の G-07、Cohen d = 1.14)は Embedding で測ってあったが、それが `of` や `which` のような語の使い方に出ていることは、 この古い道具でしか見えない。

語本による散らばり多い本少ない本
of0.73PG-54610PG-72735
very0.63PG-34655PG-2892
having0.62PG-56614PG-34431
which0.61PG-26070PG-72735
or0.60PG-9368PG-72735
and0.57PG-62509PG-72735
upon0.57PG-54610PG-3833
said0.54PG-56614PG-54610
the0.53PG-54610PG-72735
little0.53PG-24714PG-18450

対応分析 ── 本と語を同じ平面に置く

意味の空間の地図(UMAP)は「近い」としか言えない。 対応分析(Benzécri)は軸に語が乗るので、なぜ近いのかが読める。 本 32 冊 × 頻度上位 200 語の分割表を、 標準化残差の特異値分解で 2 次元にした。

dehavingansayprincetgoneeatcomegoinggogetprincessalsohimフィリピンハワイルーマニアベーリング海峡(アラスカ)グリーンランド(イヌイット)スリランカジャマイカ第 1 軸(寄与 42.2%)→↑ 第 2 軸(寄与 13.1%)
本 × 語の対応分析(全 32 冊)。丸が本(文化圏の名で置いた)、灰色が語。 語は 200 語のうち原点から遠い順に 26 語だけ描いている (全部描くと重なって読めないため)。 近くにある本と語は、その語がその本に不釣り合いに多いことを意味する。 点が近すぎて名前を置けなかったものがある —— 本 25 冊・語 11 語は丸だけ、または描いていない。 重なったまま描くと読めないので落とした。

第 1 軸(寄与 42.2%)は、ほぼジャマイカのクレオール一冊と、それ以外を分けている。 右の端に de・say・go・t が、 左の端に which・its・been・should が並ぶ。 話の中身ではなく書き方の軸である。

havingprincetllgonegotgoingeathorsedewellalsoprincesspeoplejustaskedaftergirlsaidmentillseaフィリピンハワイルーマニア北米先住民ベーリング海峡(アラスカ)ブラジルドイツ語圏中国南アフリカベンガルスリランカノルウェー第 1 軸(寄与 22.4%)→↑ 第 2 軸(寄与 20.5%)
ジャマイカの一冊を抜いた地図(31 冊)。丸が本(文化圏の名で置いた)、灰色が語。 語は 200 語のうち原点から遠い順に 26 語だけ描いている (全部描くと重なって読めないため)。 近くにある本と語は、その語がその本に不釣り合いに多いことを意味する。 点が近すぎて名前を置けなかったものがある —— 本 19 冊・語 4 語は丸だけ、または描いていない。 重なったまま描くと読めないので落とした。

一冊が軸を独占してしまうので、その本を抜いた図も並べる。 抜くと寄与は 22.4% まで下がり、 残りの本どうしの関係が見えるようになる。抜いた事実を書かずに二枚目だけを見せると、嘘になる。

✗ トピックモデル(LDA)── 本の写しになっていないか

LDA(Blei ら 2003)は深層以前のトピックモデルの定番である。 ただしこのコーパスは一冊が一つの文化圏に対応するので、 語で群を作ると「トピック」と称して本を並べ直しただけのものが出る。 だから出す前に、トピックと本の重なりを測った。 英語 1,163 話・32 冊、 機能語と固有名 1,378 語を落とした残り 7,984 語彙、 トピック数は 12 に固定(良く見えるまで動かさない)。

群の作り方本との重なり(NMI)
LDA のトピック0.362(帯 ≤ 0.35)
e5 の群(いま画面に出しているもの)0.710
e5 の群(未分類を除く 1026 話)0.780
同じ話だけで測った LDA0.378
無作為に 29 群へ分けたもの(偶然の水準)0.130

登録した帯を超えたので、H-12a は不成立である。LDA のトピックは、偶然の水準(0.130)より はっきり本に寄っている。これを「文化ごとの主題」として読んではいけない。ただし比べる相手も測ってある —— いま画面に出している e5 の群のほうが、本にずっと強く寄っている(0.710、未分類を除くと 0.780)。 この題材では、語で分けても意味で分けても本が出る。 12 個のうち 2 個は、重みの半分以上が単一の本から来ている。

#上位語話最も重い本の割合半分を占めるのに要る本文化圏(上位)
4its・young・being・also・life・until・boy・even6367.9%9 冊ナイジェリア南部、ヒマラヤ山麓、西アフリカ(ゴールドコースト)
6horse・palace・thou・youth・brother・poor・till・sister20121.7%3 冊アナトリア、ドイツ語圏、ロシア
5big・gone・says・ran・money・till・yes・giant17727.4%4 冊イングランド、ジャマイカ、ノルウェー
2monkey・tiger・dat・dem・name・boy・dog・dey6691.3%1 冊ジャマイカ、イングランド
3minister・turtle・years・letter・life・servant・heart・saying3863.7%1 冊朝鮮半島、ハワイ
9fire・sun・world・earth・mountain・heart・dead・friend1822.1%5 冊ニュージーランド(マオリ)、北米先住民、フィリピン
8rabbit・farmer・may・tiny・tiger・badger・liver・straw725.5%3 冊ブラジル、イングランド、ジャマイカ
10tortoise・leopard・spider・lizard・sparrow・toad・emu・food620.6%4 冊ナイジェリア南部、ブラジル、フィリピン
1rice・soldier・cock・corn・snake・cakes・devil・village530.0%3 冊スリランカ、ジャマイカ、ロシア
11sea・fish・canoe・sun・heart・land・full・god521.1%4 冊ニュージーランド(マオリ)、ハワイ、北米先住民
7hare・kayak・pope・rowed・mule・crocodile・fisherman・archbishop426.1%3 冊グリーンランド(イヌイット)、スリランカ、ジャマイカ
0tom・persons・kangaroo・plantain・sooth・afterwards・washerman・woodman043.0%2 冊スリランカ、ジャマイカ、オーストラリア先住民

「半分を占めるのに要る本」が 1 冊なら、そのトピックはその本の言い換えである。 たとえば dey・dat・dem の並ぶトピックはジャマイカの聞き書き一冊、thou・thee・thy の並ぶトピックは古い訳文の一冊に対応する。これは物語の主題ではなく、訳者の書き方である。

✓ 語りの状態列(隠れマルコフモデル)

測ったことの H-05 で「筋の形」を測ったとき、順番が効いていることは示せなかった(順番を使わない突き合わせでも同じだけ当たった)。 そこで、順番を明示的に扱う深層以前の道具 —— HMM —— で同じ問いに答え直した。 段落ごとに数え上げだけの 6 つの特徴(緊張語の差・会話の割合・平均文長・ 出来事の引き金語・固有名の密度・語数)を作り、5 状態のガウス HMM を EM で学んだ。1,003 話・30,785 段落。段落の位置は特徴に入れていない —— 入れれば状態は位置の言い換えになる。

✓ 状態は位置の言い換えか状態と段落の位置(五分位)の NMI は 0.003(帯 ≤ 0.25)。位置ではない
✓ 状態は本の言い換えか状態と本の NMI は 0.016。本でもない—— LDA のトピック(0.369)や e5 の群(0.690)と違い、状態は本に縛られていない
✓ 状態列で同じ話を言語をまたいで見つけられるか独英グリム 18 組で、対の状態の並びの似かたは 0.739、 対でない組の平均は 0.600(順列検定 p = 0.000、帯 p < 0.01)。足りない
! 対照状態列を話ごとに並べ替えてから比べると 0.674。 並べ替える前は 0.739 で、並べ替えると下がる(順番が効いている)

三つとも通ったので、登録どおり状態の帯を画面に出す。並べ替えの対照も 0.674 で、 並べ替える前の 0.739 より低い —— 順番を壊すと似かたが落ちる。ただし 2026-09-18 の測定では、同じ帯で不成立だった(対 0.626 / 対でない組 0.560・p = 0.062 で、並べ替えの対照はむしろ高かった)。 本が 30 冊から 33 冊に増え、学習に使った段落が 29,012 から 30,785 に増えて結果が変わった。帯は一度も動かしていない。同じ主張を二度見たことは、この文が記録である。

状態段落の割合緊張語の差会話の割合平均文長出来事の引き金語固有名の密度語数同じ状態が続く率
016.3%-0.13-0.70+1.12-0.13-0.55+1.210.32
123.3%-0.07-0.41+0.23-0.52-0.28-0.100.26
224.1%-0.01-0.34+0.24+0.48-0.21+0.330.40
314.1%+0.37+0.59-0.67+0.87+0.39-0.580.19
422.3%-0.08+0.93-0.90-0.53+0.67-0.810.33

値は話の中で標準化してある(本ごとの尺度の差を持ち込まないため)。 たとえば会話の割合が高く平均文長が短い状態は「掛け合いの場面」、 出来事の引き金語が多い状態は「事が起きる場面」と読めるが、その読みは測ったことではない。測れたのは上の三つだけである。

状態の帯 ── 段落の並びを状態で塗る

一話を段落の並びとして描き、段落ごとの状態を色と番号で示した(先頭 48 段落まで)。同じ話のドイツ語版と英語版を上下に並べてある。 訳も長さも違うのに、状態の出方が似ることが目で見える。

Die Wichtelmänner / ドイツ語圏/ドイツ語
2
2
3
2
2
2
3
3
The Elves and the Shoemaker / ドイツ語圏/英語
2
2
2
2
2
2
2
2
2
3
Der Froschkönig oder der eiserne Heinrich / ドイツ語圏/ドイツ語
2
2
1
2
4
2
2
4
2
The Frog-prince / ドイツ語圏/英語
2
2
2
4
2
4
4
2
1
4
2
2
1
2
Der Wolf und die sieben jungen Geißlein / ドイツ語圏/ドイツ語
2
2
1
4
2
2
3
3
The Wolf and the Seven Little Kids / ドイツ語圏/英語
2
2
2
2
2
3
3

参考に、対になっていない話も並べる(同じ色でも、並び方は話ごとに違う)。

Makíte / グリーンランド(イヌイット)/英語
2
4
2
4
0
1
4
1
1
4
1
4
3
4
1
4
0
0
2
4
4
1
4
1
4
2
1
2
2
4
Kánagssuaq / グリーンランド(イヌイット)/英語
2
2
2
1
1
4
4
0
4
2
1
0
4
4
The Magpie's Nest / イングランド/英語
1
0
1
1
1
4
1
1
4
1
3
0
4
4
3
4
0
The Tree with the Agate Beads / フィリピン/英語
3
2
2
2
2
2
3
1

色は状態 0〜4 に対応し、番号を帯の中に書いてあるので色だけに頼らずに読める。 状態の意味(特徴の平均)は上の表にある。帯は「この段落がどの状態か」を示すだけで、筋の意味を説明するものではない。

この頁が言わないこと

すべて `ml/classic.py` / `ml/classic_eval.py` / `ml/topics.py` / `ml/narrative_hmm.py`。 scikit-learn と numpy だけで動く(HMM の EM も numpy で書いてある)。